はじめに
劇団四季のミュージカル「マンマ・ミーア!」を観劇しました。
私は映画版を先に観ており、ABBAの楽曲も英語版で聴いていました。そのため、今回も歌を楽しみに劇場へ向かったのですが、実際に観終わって特に印象に残ったのは、歌唱そのものよりも、コミカルな芝居と舞台全体の盛り上げ力でした。
ものすごく好みに刺さった作品というよりは、素直に「楽しかった」と思える舞台です。
一方で、同行した友人や周囲の観客の反応を見ていると、長く愛されている理由もよく分かるものでした。
映画版との演出の違いについて
広い景色を、舞台でどう表現するのか
映画版「マンマ・ミーア!」で特に印象的なのは、島や海、空といった開放的なロケーションです。
そのため、舞台版を観る前は正直なところ、「この広さを舞台でどう表現するのだろう?」と思っていました。
映画のように本物の海や島を映すことはできません。
しかし、実際の舞台では、景色の代わりに人の動きが空間を作っていました。
登場人物たちが舞台上を大きく動き、ダンスやコミカルな芝居で空間を埋めていきます。映画版が景色と音楽によって作品の広がりを見せていたとすれば、舞台版は、演者の身体の動きや声によって劇場全体をにぎやかにしていたように感じました。
私は舞台版ならではの、人物の大きな動きやにぎやかな雰囲気がかなり好きでした。
映画版よりもコミカルな劇団四季版
劇団四季版は、映画版よりもさらにコミカルに感じました。
表情や声の出し方、動きが大きく、映画版と比べて、舞台上で伝わりやすいように誇張された、濃い演技に感じました。
映画版を先に観ていたため、最初はその濃さに少し驚きました。
ただ、その誇張された演技が、劇場では分かりやすい笑いにつながっています。
特に印象に残ったのは、ドナや3人の父親候補をはじめとする親世代の人物たちでした。
私は歌を聴きに行ったつもりでしたが、気づけば、大人たちがわちゃわちゃと動き回るコミカルな芝居をかなり楽しんでいました。父親候補も、歌唱面で強く印象に残ったというより、面白くて愛嬌のあるキャラクターとして好感を持ちました。
コミカルな演出の感じ方について
舞台版のコミカルな演出は、すべての場面で同じように感じたわけではありませんでした。
コミカルな方向への演出変更が合わないと感じた場面と、よく合っていると感じた場面について書いていきます。
合わないと感じた場面
私が映画版で好きだった曲の一つに、「Lay All Your Love On Me」があります。映画版では、曲の大部分を使って二人の恋愛感情が一気に高まっていき、後半になって仲間たちのコミカルな動きが加わる印象でした。
映画版では、婚約者はコミカルに動く仲間たちとは少し距離を置き、最後まで恋愛場面の中心にいてクールな印象でした。
一方、舞台版では、仲間たちに連れていかれたあと、そのまま群舞に加わっているように見えました。そのため、二人の恋愛よりも、場面全体の明るさや楽しさが強く印象に残りました。
私は映画版で、この曲の恋愛の熱量に強く惹かれていました。そのため舞台版では、周囲のコミカルな動きに気を取られ、観劇後には、この曲が使われていたことさえ一時的に思い出せないほどでした。
ただし、作品全体が映画版よりもコミカルに作られていることを考えると、この場面だけ恋愛を長く濃厚に見せるよりも、早い段階で明るい場面へ切り替えるほうが、舞台全体の雰囲気には合っているのかもしれません。
また、映画版では水上バイクで格好よく去る見せ方がありますが、これは海を舞台にできる映画版ならではの演出だったのだと思います。こうした違いもあり、舞台版では、映画版ほど恋愛の高まりを強く感じませんでした。
合うと感じた場面
逆に、コミカルな演出によって、映画版よりも関係性が分かりやすくなった場面もあります。
若い男性が、ドナの友人である年上の女性にあしらわれながらも、懸命に気を引こうとする場面です。
映画版では、私には二人の年齢差や立場が直感的につかみにくく、年上の女性が本気で相手をあしらっているのか、余裕を持って駆け引きを楽しんでいるのかも、少し分かりにくく感じました。
一方、舞台版では、若い男性の必死さと、年上の女性の余裕が、大きな動きや表情によって明確に表現されています。
若い男性を演じた役者は、ほかの登場人物とは少し違う、ダンサーらしい身体の使い方が印象に残りました。
単に上手なダンスを披露しているというよりも、「どうにか振り向いてもらいたい」と懸命に頑張っている様子が、動きから伝わってきます。少し空回りしながらも一生懸命な姿がキャラクターによく合っており、その頑張っている感じ自体が、とても印象に残りました。
また、年上の女性が余裕を持って受け流し、若い男性が何とか気を引こうとする関係も分かりやすく、コミカルな演技が二人の感情や立場を見える形にしていました。映画版ではあまり印象に残らなかった場面でしたが、舞台版では、身体全体を使った演技によって人物の魅力が強まり、素直に面白いと思えました。
私はコミカルな演出そのものが好き、あるいは苦手なのではなく、その場面で見たい感情と、演出の方向が合っているかどうかで、受け取り方が変わるのだと思います。
楽曲と歌唱について
ABBAの有名曲が次々に登場する強さ
「マンマ・ミーア!」には、「Dancing Queen」や「Money, Money, Money」など、曲名を知らなくても、聴けば分かるようなABBAの楽曲が数多く登場します。
テレビ番組などで使われることも多いため、ABBAに詳しくない人でも、「この曲は知っている」と思える場面が多いのではないでしょうか。同行した友人は、ミュージカルはほとんど行きませんが、馴染みのある楽曲と明るく盛り上がる雰囲気をかなり楽しんでいました。
知っている曲が流れる安心感と、舞台上のにぎやかな動きが合わさることで、普段あまりミュージカルを観ない人でも入りやすい作品になっていると思います。
英語版を先に聴いていたことで感じた違和感
一方で私は、映画版を先に観て、楽曲も英語で覚えていました。
そのため、日本語の歌詞を初めて聴いたときは、英語が残る部分があっても「日本語版になるのか」と戸惑いました。
翻訳の良し悪しというよりも、英語の音やアクセント、言葉の区切れ方まで含めて曲を覚えていたため、馴染みのある曲なのに、少し違う曲を聴いているような感覚がありました。
映画版を先に観たことで、英語の歌と島の景色が、自分の中で「マンマ・ミーア!」の基準になっていたのだと思います。
観る順番が逆だったら、舞台版の日本語歌唱に対する印象も違っていたかもしれません。
歌唱力と、自分の好みは違う
終演後、周囲からは、「お母さんの歌がすごかった」などといった感想が聞こえてきました。
実際、ドナ役の歌唱に満足した観客は多かったのだと思います。
ただ、私自身は、今回は特に好みだと感じる歌声には出会いませんでした。
歌唱がうまいことと、自分の好きな声や歌い方であることは、必ずしも同じではありません。
そのため、歌を目的に観に行ったわりには、歌唱よりもコミカルな芝居や人物の動きのほうが印象に残る結果になりました。
それでも舞台全体を楽しめたのは、歌以外の見せ方がかなり強かったからだと思います。
作品全体について
複雑な家族の話なのに、最後は清々しい気持ちが残る
「マンマ・ミーア!」は明るい作品に見えますが、物語の内容だけを考えると、意外と複雑です。
父親が誰なのか分からないこと、母と娘の関係、過去の恋愛、結婚や再婚、これからの家族の形など、扱われている問題は決して単純ではありません。しかし、物語はなんやかんやとうまくまとまります。
さらに最後には、舞台を観ているというより、ライブを楽しんでいるような時間が待っています。
そのため、見終わったあとに家族関係について考え込んだり、もやもやを抱えたりするよりも、「いろいろあったけれど、楽しかった」という、すっきりした感覚が残りました。
難しい話を扱いながら、最後は観客を明るい気持ちで劇場から送り出す。
この着地のさせ方も、「マンマ・ミーア!」の大きな強みだと思います。
総合的な盛り上げ力が高いミュージカル
私は、観客全員で盛り上がるタイプの作品が特別に大好きというわけではありません。そのため、劇団四季版「マンマ・ミーア!」も、強烈に好みに刺さったというよりは、「楽しかった」「良かった」という感想に落ち着きました。
それでも、作品としての盛り上げ力はかなり高いです。
馴染みのあるABBAの楽曲、コミカルな演技、大きな身体の動き、親世代の個性的なキャラクター、分かりやすい笑い、そして最後のライブのような時間。すべての要素が、観客を楽しい気持ちにする方向へ組み合わされています。
自分が熱狂するタイプの作品ではなかったからこそ、同行した友人や周囲の観客が喜んでいた理由を、少し客観的に見ることができた気もします。
おわりに
映画版を先に観た私は、歌とロケーションについては、今でも映画版のほうが好みです。
一方で舞台版では、映画とは違う、俳優の身体やコミカルな芝居の面白さを楽しめました。
映画版では景色と歌が作品を広げ、舞台版では人の動きと笑いが劇場を盛り上げる。
同じ物語でも、媒体が変わることで、強く感じる魅力も変わるのだと思います。
歌を聴くつもりで劇場へ行き、親世代のコミカルな芝居を楽しんで帰ってきた観劇でした。
映画版をまだ観ていない方には、舞台版との違いを含めて、映画もあわせておすすめしたいです。
ミュージカルに馴染みがない方でも入りやすく、幅広い年代の方が肩肘張らずに明るい気持ちで楽しめると思います。テレビ番組などで耳にしたことのある有名曲も多く、会場全体で盛り上がれるので、ぜひ一度観てほしい作品です。

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